こんにちは。freee 関西支社でアプリケーションエンジニアをしている @kumatch です。 2019年5月16日に神戸で開催されたアクセシビリティの祭典 2019 に参加してきました。 アクセシビリティの祭典は、アクセシビリティについて考える日である「Global Accessibility Awareness Day (GAAD)」の5月第3木曜日にあわせて毎年神戸で開催されているイベントです。
freee はアクセシビリティ向上を日々取り組みしており、本イベントへは昨年に引き続き今年もスポンサーとして協賛させていただきました。 ちなみに freee 東京本社の方でも GAAD にあわせてイベントをやりたい!ということで同日にアクセシビリティ LT を開催しておりました。こちらも多岐にわたる発表があり大盛況だったとのことです。
とにかくイベントがアクセシブル
さて本イベント、アクセシビリティの祭典という名前だけあって、イベント最中はとてもアクセシブルな対応でいっぱいでした。
会場ではセッションの発表すべてに手話通訳が用意されているのはじめ、UD トーク による多言語リアルタイムな字幕の提供が行われており、会場前面のステージ横スクリーンに表示がされていました。加えて各自スマートフォン内に UD トークを導入しておけば、手元で同じテキスト字幕の参照をすることも可能。音声の誤認識によるミステキストがどうしても表示されてしまうこともあったのですが、それもスタッフの方々が即時に補正をしてくださっていました。
リアルタイム字幕は、聴覚障碍のある方のみならず健常者であっても聞き逃しや聞き慣れない言葉による不明瞭な理解をサポートしてくれますので、とても素晴らしい設備だと思いました。
セッション
当日のセッションでは11個の発表があり内容も様々で盛りだくさんでした。弊社からは yoshi こと竹田が登壇し、 freee のアクセシビリティへの取組みを発表しました。
本発表では、freee がなぜアクセシビリティに取り組んでいるのかの理由、そしてプロダクト開発の中でアクセシビリティ対応を実際にどのようにして進めているかをお話しさせていただきました。freee では所属チームを横断したアクセシビリティ対応のためのワーキンググループが結成されており、日々の活動報告や情報共有を行なっています。グループの活動の1つにアクセシビリティQAというものがあり、リリース前の機能に対してしっかりとアクセシビリティチェックを行い適切に対応している流れを事例と共に紹介しました。
その他、様々なお話がありました。その中でいくつか抜粋してご紹介させていただきます。
インクルーシブ対応としての字幕のトレンド
先程も紹介しました本イベントの発表をリアルタイム字幕表示させている「UDトーク」の機能として、音声認識によるリアルタイム字幕出力をはじめ、翻訳、議事録、さらにはカメラを通して字幕部を表示してくれるシアターモード、ウェアラブル端末を使った利用方法などを順に紹介。字幕にはふりがなも振られるため海外の方にも好評とのことで、ご自身が地域活動として行なっておられる Code for Nerima でも有効的に活用されているとのこと。ここで本イベントのタイトルにもある「インクルーシブな世界」とはどういうものかという説明として、exclusion (多数派だけが使える), separation (多数派・少数派がそれぞれ専用で使える), integration (多数派が使えて、あわせて少数派も専用で使える), inclusion (全員が同じように使える) の4つを示した上で、先程の Code for Nerima にも多種多様な人たちが1つの事柄(= 練馬区)を元に集まっているこの状態こそが inclusion な世界であると紹介されました。 アクセシビリティとは「体験と想像力」であり、初めて知って考える事が増えたこと、そしてそれが活動のエネルギーになるという点を挙げられており、これはまさしくそのとおりであると深く感じました。
また、コミュニケーションバリアフリープロジェクトという、障碍により情報が正しく受け取れないことで疎外感を感じてしまいコミュニケーションバリアが出来てしまうことの改善を目的とした活動を紹介。登壇者同士の質問の1つで、「音声認識によって生活はどうかわったか?」という問いに対して、以前まではその場の自分は置いてけぼりを受けている感覚であったのが、自身のリアル感を高めてくれているようで本当に感謝しているとお答えされていたのが印象的でした。
ウェブアクセシビリティ最新動向 2018-2019
「品質への社会的要求」「アクセシビリティ/UX デザイン」「WCAG 2.1」の3つの視点でのお話をされていました。 Web ユーザの多様化とインフラ化を背景に海外では法規制による品質要求が高まっていることを挙げられ、日本でも品質基準の担保を求める、より適切な法規制があるべきでは?という問いかけと共に、これを仕方なく対応するのではなくユーザを守るための基準として有効的に利用しようという旨の提案がありました。
アクセシビリティとUXデザインの実践的な取り組みが多くみられるようになってきたという事例として、デザインシステムを通じたアクセシビリティ向上という観点より freee が取り組んでいるデザインシステム vibes を紹介していただくという場面もありました。
インクルーシブなサービス改善
Yahoo!天気・災害のアクセシビリティ改善として、社内におられるロービジョンの方々に協力をいただいたユーザーテストを実施したという事例の紹介をされていました。
ユーザーテスト参加者の方々から変更前後の様々な感想・フィールドバックをもらったものの、人によって全然違った(わかりやすい・わかりにくいなどの真逆の感想)という結果だったとのこと。それに対し、天気・災害サービスとして伝えるべき情報にプライオリティをつけ、その中で重要な要素の情報がロービジョンの方に向けて必ず伝わるよう改善を進めていったそうです。
最後に障碍を持つ方々が本改善に参加した感想のまとめをお話しされていたのですが、自社で提供しているサービスの UI/UX 改善に貢献できたということに対し喜びがとても大きかったという旨をあげられていた点がとても印象に残っています。
アクセシビリティの未来を考える
アクセシビリティにより未来はどうなるか、それを踏まえて今私たちが取り組むべきことは何かというテーマの元パネルディスカッション形式で進められました。
アクセシビリティによる明るい未来の1つの側面として、これから未来に向けて生産年齢人口は減少するという見込みがあるものの、その問題に対してロボティクスや AI といった技術が有効であり、これまで人が行っていた作業をロボットやAIに置き換えることによる代替、あるいは障碍者、高齢者を補助するパワードスーツ、遠隔操縦(アバター)、情報変換の仕組みを駆使することで多くの方が無理なく働くことができるようになり、結果生産力をカバーすることができるだろうという点をあげられていました。
しかしその一方で、海外ではアクセシビリティの観点で拘束力の強い法規制で権利がしっかりと守られている(前述のウェブアクセシビリティ最新動向でも触れられていた点ですね)のに対し日本では障害者差別解消法が施行されてから3年経ってもまだまだ進んでいないという点に触れ、アクセシビリティを推進していくにはもっとしっかりした法制度を施行しなければならないという課題も。
最後に今の私たちがすべきこととして、まずはアクセシビリティを一人ひとりが認識し多様性の理解をすること、その上でデジタルなもの (= Web で扱えるもの) は加工がしやすく人にあわせやすいものであるのでしっかりと対応を進めていくこと、また Web 以外のもの (新しく出てきたデバイスなど) については今は Web アクセシビリティの延長でやってきているものの、それぞれにあわせて、より良い対応を考えていけるのではないかという点があげられました。
展示について
会場ではセッションと共に、障碍を持つ方へのサポートを目的とするハードウェア、ソフトウェアが多く展示されており、実際に触れられるようになっていました。タイムスケジュールの中に「展示ブースを見学する時間」が設けられているなど、一人でも多くの方に関心を持ってもらえるよう取り込みされているのが良かったと思います。実際にその時間の展示ブースは大盛況でした。
最後に
私自身、アクセシビリティ関連のイベントへの参加は初めてだったのですが、とても良い影響を受けることができたイベントでした。とにかく「優しい世界がそこにある」というのが率直な感想です。
これまでコツコツと活動を続けてこられた方の、成果といえる喜びであったり、これからもしっかり推進していくぞという意気込みであったり、あるいはまだまだ良くならなくてもどかしさの思いといった気持ちをひしひしと感じることができましたし、それを受けた私自身もどんな小さなことでもできることから1つずつ積み重ねていこうと思う気持ちがまた強く思えるようになった一日でした。未来の自分と仲間と、これから生まれてくる子供たちのためにも、アクセシビリティやっていくぞ。