この記事はfreee Developers Advent Calendar 2018の12日目です。
freeeのCEOの佐々木大輔です。
今年7月、freee株式会社のミッションの拡張を実施した。(変更というより拡張という概念が正しい気がするので、ここではあくまで拡張と表記)。freeeは7月が年度初めとなるのだが、会社を設立して6年経ったタイミングにて、それまでの「スモールビジネスに携わるすべてのひとが創造的な活動にフォーカスできるよう」というミッションを改め、それを拡張したものとして、「スモールビジネスを、世界の主役に。」を新ミッションとして掲げることとした。
このミッションの拡張はやはり、今年会社全体として一番大きな意思決定だったと言えることではないかと考え、いったんこの機会に振り返ってみたい。
どんな背景や思いを持ってこのミッションの変更をしたのかについては、こちらのブログに詳細を記しているが、今回、拡張をするに至った背景のポイントは
- すでに、「創造的な活動にフォーカスできること」以上の価値を感じてくれているユーザーが多く存在すること
- この1年くらいの取り組みは、特に「創造的な活動にフォーカスできること」に向かうものとして考えるには、若干こじつけっぽい考え方が必要になってきていたこと
- さらに今後やっていきたいことを考える際にも、freeeのサービスの延長線上でやっていくべきことと思われるが、ミッション上説明づけるのが難しくなってきた
というところがある。
ある意味、ミッションに向かって自分たちが生み出してきたサービスがそれ以上に成長する瞬間を迎えたという意味でもあるし、最初のミッションは、とにかくビジネスを軌道にのせるための一点突破と連動してミッションをセットした部分もあったので、フェーズが変わって見直す時期が来て当然といえば当然なのかもしれない。
実際にミッションが変わって何が変わったのか
ミッションとは、よく「なぜ我々はこれをやるのか」に答えるものであるとされる。それでいうと、新ミッションである「スモールビジネスを世界の主役に」というのは、旧ミッションである「スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカス」を「何故やるのか」についての答えに近いものだ。
その意味で、この新ミッションは、創業当初から持っていた、より根源的に言った場合の想いをあらためて明文化しているというものであって、ベクトルを変えたというような変化ではないので、「変更」というより「拡張」と呼ぶのがよいのではないかと思っている。
ちなみに、この「スモールビジネスを世界の主役に」を「何故やるのか」と問われれば、「それがよりよい世の中をつくるからだ」というところに行き着く。ただ、ここをミッションとしてしまうと自分たちが誰なのか、どんな立ち位置で価値を創出することを背負う集団なのかは非常に不明確となる。その意味で、「スモールビジネスを世界の主役に」というのは、自分たちの今のビジネスに対して、十分に根源的であり、自分たちの立ち位置が明確とするものであると考え、新ミッションとしている。
具体性をもたせるためのサービスコンセプト
一方で、「スモールビジネスを世界の主役に」するために、できることは無数にありすぎる。新ミッションは、このようなことを実現するために振り切るのだということを表現するには、非常に気に入っているが、具体的に何は優先順位が高くて、何は優先順位が低いということの指針として使うには(使えなくはないが)若干具体性にかける。
そのため、自分たちが目指すもの(もしかすると、いろいろな会社でビジョンといわれるものに近いかもしれない)、あるいは、提供していきたいと思っているものを表現するステートメントとして、「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」というサービスコンセプトも同時に設定をした。
このサービスコンセプトにそった価値を提供することで、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションに対して近づくことができるというのが、freeeの持つ重要な仮説であって、現在のfreeeの取り組みはすべて、「スモールビジネスを世界の主役にしよう」という気持ちで、「(前略)誰でも強くてスマートにビジネスを育てられるプラットフォーム」をつくることに向かっているはずである。
考えられる範囲が広くなった
例えば、freeeでは、会計freee・人事労務freeeをプラットフォームとして、いかに次世代の金融サービスを提供することができるか(ユーザー目線で言えば、簡単かつ低コストでいままでになかった成長資金・運転資金を拡充する方法を提供する)ことを考えてきたし、これまでの実験的な取り組み以上の大きな取り組みも来年以降さらに本格的に進めていく計画だ。このようなサービスの提供を考える中で「創造的な活動にフォーカス」というくくりで考えれば、融資などの際の事務的なプロセスを簡単にする部分以外はミッションとの整合性を考えるにあたって、若干こじつけっぽい補助線が必要になる。一方で、「誰でも強くスマートにビジネスを育てられるプラットフォーム」をめざすというくくりで考えれば、これまでとことなる発想のクラウド会計ソフトfreeeを活用した金融サービスだからこそ生み出せる価値の幅はより広がっていくだろう。
会計freeeの文脈で考えてみても、新ミッション、新コンセプトで考えていく上での大きなメリットがある。「創造的な活動にフォーカス」という文脈で考えていくと、「とにかく面倒なものはなくなればいい」「簡単に業務を済ませられるようになればればいい」というところに焦点が入ってしまう。しかしながら、「会計ソフトとはそもそも何のためにあるのか」ということを考えてみると、単に法的に求められることを最速で終わらせる行為だけに焦点を向けるのではなくて、その会計データからいかに経営をよくしていくか、ビジネスを強くしていくかというところまでできる価値を提供するようにならなければならない。
ついつい前のミッションでは、しっかり「ビジネスを強くするために」という視点と向かい合い切れてなかったのではないかと自省している部分があり、新しいミッションにおいて「誰もが強くスマートにビジネスを育てられるプラットフォーム」をつくるという視点で会計ソフトを捉え直すことで、より価値の高いサービスづくりができると考えている。
給与計算の文脈もこれに近いことが考えられる。単に、事務手続きとして、正確に面倒なく給与を計算することは当然求められるのであるが、多くのビジネスにおいて大きなコストアイテムである人件費をよりしっかり見えるようにするものとして捉えれば、ビジネスを強くすることに与するであろう。
やってみて気付いたこと
もちろん、決めたものの、何事もやってみないとわからないことも多い。ミッションの拡張をやってみて、やってみた結果気付いたことなどをいくつか。
短いのはよい
「スモールビジネスを、世界の主役に。」はとにかく短い言葉だ。以前の「(前略)創造的な活動にフォーカスできるよう」というようなミッションを挨拶の場であったり、端的に会社を表現する場で話そうとすると舌を噛んでしまいそうになることも多々あった。しかしこの「スモールビジネスを世界の主役に」という言葉は端的で、いろんなシチュエーションで自分たちのスタンスを簡単に表現することができて非常に小回りが効くようになった。
原点の想いであるので、伝えやすい
実は、今回のミッションを変更する前から、僕は常々自分の会社説明する際に「最終的にスモールビジネスが大企業よりも強くてかっこいい社会をつくるんだ」ということをいろんな場で無意識に言ってきていた。今回のミッションの変更はその思いに対する原点回帰であって、より自分たちの思いに対して正直になれるミッションであるということを再認識した。
グローバルと間違えられやすい
新しいミッションにしてからよく、「中小企業の海外進出を支援するのですね」というようなことを言われるようになった。しかしこれは違う。ここでいう「世界の主役に」とは「世の中の主役」にという意味であって、語呂として「世界」のほうが「世の中」よりもよかったので「世界」という言葉をあえて使っている。もちろんいつか海外進出支援であったり自分たち自体の海外展開も考えていきたいと思っているし、また、自分たちを世界の競合とベンチマークすることはつねに意識している会社ではあるが、まずこの「世界の主役に」のスコープというのは「世の中の主役に」という意味で考えていただきたい。
今後の課題
新しいミッション、そしてサービスコンセプトに向かってあり方を考えていくということはスタートが切れた。
しかし特にfreeeが提供していきたい価値の具体としてセットしたサービスコンセプトに対して、具体的にこれを完全に実現するためには何と何が必要でそれをどのような順番で進めていくのかという計画作りにはまだ至っていない。これをしっかり言語化し明確化した計画に落とし込んでいくというプロセスを今後踏んでいかなければならない。
そしてまたこの新しいミッションが持つ世界観とはどういうものかを言葉だけでなくあらゆる形で表現していくということも、まだまだ道半ばである。このミッションの変更に前後してブランドデザインの刷新というものも少しずつ進めてきており、例えば小さなロゴの変更や、ブランドデザインの基礎固めなどを進めてきた。
しかし、この新しいミッションとの世界観とデザインコンセプトをさらにすり合わせミッション自体の世界観を言葉だけでなく、うまく感覚も含めて伝えていけるようになっていく余地は大きいと思っている。
まだまだ freee が目指す世界の実現というのはこれからだ。これまでfreeeが作り上げてきたプラットフォームが真の「誰もがビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」に育っていくにはまだまだやらなければならないことが山ほどある。それでも、とても重要なことは、freeeがそのように育っていくことが絵空事ではなく、現実としても少しづつ近づいてくる進化を遂げられれているということだと思っている。
来年のfreeeもぜひご期待ください。
明日はfreeeが誇るそば打ちエンジニアの仙波さんです。