こんにちは。freee でエンジニアリングマネージャーをしている sentokun と申します。 最近仕事への向き合い方やリーダーシップについて人と話す機会がよくあるので、意思決定をキーにして考えをアウトプットしようと思います。
3行サマリ
- ものごとを前に進めるのって大事だよね
- ものごとって実は広いし、関わり方を広げられることが重要だよね
- そんなものごとを前に進める行為、それが意思決定だよね
想定読者
- リーダーになろうとしている、あるいはなりたい人
- 特にその境で壁を感じている人
- リーダーと自分は別のものと感じている人
- オーナーシップや意思決定が遠いものに感じている人
- 総じて、役割の壁を感じることのある人
注意: この記事は理想論・抽象論よりの内容となっています。 泥臭い経験や失敗談は Appendix で軽く触れる程度ですのでご了承ください
みなさんにいくつか質問です
これから 3 つほど質問をしてみます。一緒に頭の中で考えてみてください。
Q1. 「みなさん、意思決定はしていますか?」
意思決定というと、大それたことと思うかもしれませんね。リーダーだからやっているよという人もいるとは思いますが、そんな立場にないよと思う人も多くいるのではないかと思います。
では、もう少し身近な質問をしましょう。
Q2. 「みなさん、普段の仕事の中でものごとを前に進めていますか?」
自分だけで解決しないものでも構わないので、思い浮かべてみてください。
この質問に対しては、大半が Yes と答えるのではないかと思います。自分でコードを読んだり調査して解決する、人に頼るなど、自分なりに試行錯誤して前進しようと日々の仕事に向き合ってくれているのかなと思います。
では、最後の質問です
Q3. 「あなたのイメージするものごとは、どんなものが含まれていましたか?」
日々の業務で無意識に進めているものごとについて、少し立ち止まって考えてみてください。

前に進めたいものごととはなにか?
あなたが思い浮かべた前に進めているものごとには、どのようなものがありましたか?
難しい技術仕様、バグの調査、障害対応といった具体的なタスクでしたか?あるいは設計、コーディングといった開発プロセスですか?人によってはチーム課題や個人の成長、組織間の課題やプロジェクト、あるいはミッション・ビジョンを浮かべた人もいるかもしれません。

プロダクト開発に関わっている人であれば、ユーザーに価値を届けるために、様々なものごとを日々前に進めようと悪戦苦闘していると思います。そしてあなたの所属しているチームが担当するプロダクト・領域については、より解像度の高い解くべき課題が色々ぶら下がっていることと思います。
その課題を解決するためにチームを組み、役割やタスクを分けて前に進める。その日々の取り組みが、あなたのイメージしたものごとになるのかなと思います。
では、追加でこんな質問をしてみます。
Q. 「あなたのチームが担当するものごとのうち、最初にあなたがイメージしていなかったものごとはありますか?」
チームに視点を広げ、色々思い浮かべてみてください。

関わるものごとを広げることの重要性
あなたのチームが担当するものごとは、あなたが前に進めているものごととギャップはありましたでしょうか?大抵はギャップはあるんじゃないかなと思います、全てを1人でできるわけではないですし。
では、そのギャップについてあなたはどう感じましたか? 感想は様々だと思います
- 理想なら自分もなんとかしたいんだけど、でもなかなか手が出なくて
- 把握はしているから大丈夫。チームで前進できてるよ!
- まあいいんじゃない?誰かがやっているなら
- こういうもんでしょ。自分はやることやってるからそれで十分
ただ、このものごとはあなたのチームが抱えており、あなたのチームがオーナーシップを持って前に進める必要があることは事実だと思います。あなたが関わっていないことでも、誰かが前に進めてくれようとしているはずです。

そんなチームのものごとに対して、チームの誰もが前に進めようと意識する状態が作れれば、よりチームとしても強くなれるのではないかと思います。よくアジャイルの文脈で使われる自己管理型組織がそのイメージかなと私は思っています。
では、あなたがチームの一員としてできることはないでしょうか?このようなものごとを自分からその周囲・チームへ、チームからその周辺へと広げていくことが大事だと私は考えています。
ものごとを広げる重要性 - マインド面
プログラマが知るべき97のことで紹介されているボーイスカウトルール (以下引用) はご存知でしょうか?「来た時よりも美しく」。関わったものに対してちょっと良くする、染み出す姿勢が大事だと思っています。
ボーイスカウトには大切なルールがあります。それは、「来た時よりも美しく」です。...中略... (このルールは元々、ボーイスカウトの父と呼ばれるロバート・スティーブンソン・スミス・ベーデン=パウエルの「自分が最初に見た時よりも、世界をいい場所にすべく努力しよう」という言葉から来ています)。
また、私の好きな『プラネテス』という漫画の中に、主人公が「この宇宙に俺には関係ない人間なんか1人もいねーんだ」と殴られながら言い放つシーンがあります。元々ストイックに孤独を感じながら宇宙に向き合ってた主人公が仲間の仲介に入ってこのセリフを語っている姿に、私はとても心が惹かれました。そういった周囲を自分の範囲として巻き込む姿勢も、時には大切なのかもしれません。

ものごとを広げる重要性 - キャリア面
ここまではマインド面からものごとを広げる重要性について語りましたが、あなたのキャリアに対するメリットについても触れます。
あなたは、なにに対して会社からお給料をもらっていると思いますか?
私は、オフィスワーカーの多くは「課題を解決することによるインセンティブ」として給料をもらっているのではないかと考えています。
要はものごとを前に進める・なんとかする動きに関与することがより大きな会社への貢献となり、給料にもつながってくるのではないかと思っています。
ではその価値をあげるにはどうすればいいか?を考えると、より大きな課題に関われるようにしていくことが大事です。そのためには、自身の関わるものごとを広げていくことが重要です。

例えば freee ではインパクトマイルストーン(通称IM)というランクと給与が紐づけられています。評価制度リンク
この IM の定義は、ざっくり言うと以下のような抽象的に表現された指標があり、その指標に見合う活躍ができると評価されるとランクが上がるという形になっています。
- ジュニア〜ミドル
- 自律的に動ける、自分で振り返り成長できる
- ミドル〜シニア
- 自チームの OKR 達成に貢献、他チームやメンバー成長にも貢献できる
- シニア〜
- 全社的にインパクトのある成果が出せる、組織成長に貢献できる
言い換えると、自分->チーム->組織全体と関わる範囲を広げていくことにより評価されるということになります。
ものごとへの関わりを広げるのは、泥臭くなんとかする働きかけ
ものごとへの関わりを広げる活動は、日々の自担当領域を少しずつ広げていくことが大事だと思います。
チームで向き合うものごとに対してもう少し関わってみる。止まっているものごとに気付いたら前に進めるために誰かに働きかけてみたり、事例を調べてみる。あるいは自分の担当にしてみる。
向き合うものごとはどれも抱える課題と言えるので、一発で正解が出るものではないと思います。その中を進めていくためには、色々試行錯誤しながらどうすればいいかを考え、トライしてみる必要があります。テクニックも大事ですが、その活動の根底にあるのはなんとかするための働きかけだと思います。
例えば、進んでいないプロジェクトに対してのアプローチは、自分が直接解決する以外にも以下のようななんとかする取り組みがあるでしょう
- 他チームとの連携が取れるよう、自分から調整の場を設ける
- 要因となる技術的課題を分析してみる
- なにが止まっている要因なのか尋ねてみる。その要因を取り除けないか考えてみる
なにかできないかと思考し、色々アプローチをかけ、なんとかする。こういった泥臭い染み出しが、ものごとを広げる上で重要なのではないかと思います。

このような『なんとかする』姿勢は、マネージャーにも必要な要素なのかなと思っています。
マネージャーの根本は「なんとかしてやりとげる」人ではないか説
このあたり、マネージャーにもたれるイメージのギャップに近いものを感じます。
マネージャー、日本語では管理者と言われます。管理することが仕事で、綺麗にものごとを整理して進める人・あるいは人の管理をする人と見られることも多いです。
エンジニアリングマネージャーの定義もきっちり分けられています。よくある定義では、プロダクトマネジメント・プロジェクトマネジメント・ピープルマネジメントで分類され、freee の役割定義 では、エンジニアリングマネージャー(EM) は Team Build, Team & Culture Management, People Management の役割期待値があると言語化されています。
ただ、私はマネージャーの本質的な意味は管理以上に、なんとかすることだと感じています。 manage の意味は管理する以外に「何とか成し遂げる」「やりくりする」という意味があります。 困難な状況でもなんとかしてやりとげる人、それがマネージャーに求められる根本的な要素なのだと考えています。
大抵、チームは綺麗に整備された状態よりも、なにかが足りず試行錯誤している状態が多いはずです。その中でなんとかやり遂げるには、きっちりとした役割を意識して動くよりも、役割に拘らず染み出してなんとかする姿勢が必要です。

ものごとをなんとか前に進めるために必要な行為、それが意思決定
ここまで、関わるものごとを広げ、泥臭くてもいいからものごとをなんとか前に進めることが大事という私見を書いてきました。 そんなものごとを少しでも前に進めようとなんとかする上で必ず発生する行為があります。
それはなんでしょう?そう、意思決定です。
大抵チームが取り組んでいることはまだ見ぬ課題、答えがわからない課題です。その課題をなんとか前に進めようとしている状態では、100% これで正しいということはありません。 しかも日々の仕事には、正しさだけでなくスピードも求められてきます。足りない材料の中からなんとかこれで進める!判断 = 意思決定しものごとを前に進めていくわけです。
実は普段あなたが関わっているものごとでも、前に進めるために知らず知らずのうちに意思決定をしているのではないでしょうか。設計の最終案を決める、コードの構成を決める、関数名を決める、どれも小さな意思決定の要素が含まれるのではないかと思います。
もちろん課題が大きくなるごとに、これでよい!と確信が持てる材料が少なくなったり、材料を集めるために関わる人が増えたりと変化が出てくると思います。そのために必要な技術も変わってきます。しかし最終的にこれ!と決めてなんとか進める行為は変わりありません。
また、実際に自分が判断を下し切るには、課題をどう特定するかやそれが正しいと判断するためにどう根拠を揃えるかといった技術は必要ですし、一定の役割が必要になるとは思います。それでも、少しでもなにかできないかと思考し、色々アプローチをかける、なんとかするためにできることはあるはずです。 なにも決まっていない状態に対してそのことをチームに共有したり、リーダーに前に進める必要がありますと進言するだけでも前進します。
少し広く関わるものごとをみて、それがなんとかできないか考え、決めるために必要なアプローチを考える。あるいは自分が決めにいく。そういった姿勢が意思決定に繋がるのではないかと思います。

(ここまで読んで「そう簡単にはいかないよ」と思う方向けに Appendix を書いてみたので、興味があれば読んでみてください。)
まとめ
意思決定は特別な人だけが行う特別な行為ではありません。日々の業務でものごとを前に進めるために、私たちは無意識に多くの意思決定を行っています。
重要なのは、自分の担当範囲を少しずつ広げ、チーム全体のものごとに対してなんとかする姿勢で関心を持つことだと私は考えています。この泥臭い取り組みを広げていくと、より大きな意思決定につながっていきます。
最後に質問します。なにか持ち帰れるものがあれば幸いです。
Q.「あなたのチームが担当するものごとで、あなたが染み出せそうなものはありますか?」
やってみようと思うことがあれば、周囲のマネージャーやリーダーと相談してみてください!きっと支援してくれると思います!

Appendix
もっと具体的な事例が欲しいんだよなという方へ
この blog ではマインド面の抽象的な話が多くなりました。もし需要があるなら具体的な失敗談や試行錯誤体験もどこかでアウトプットできればと思いますのでよろしくお願いします。
参考までに、過去に私が関わったことのあるチーム立ち上げ時の具体的な取り組みや失敗談を共有します。
特に「ネガティブ2: わからなかったら聞いてを重視し、ドキュメントを大事にしない」のセクションは、実例ベースで染み出しの難しさ・重要さについて触れています。
もし踏み込んだ話がしたいという方がいれば、身近な方に経験談を聞いてみるのもおすすめです!(私はこういう話を飲み会で話すのが大好きでした)
ものごとへの関わりを広げる染み出しのヒント
今までの話に納得しつつ、「そうは言っても理想論だよ。自分にできることはないよ」と思う人もいるかもしれません。
そんな人のために、ものごとを進める意思決定時に考えられる要素をいくつか Gemini を活用して挙げてみました。
これらに対する難易度が低いものほど、自分1人でも実践しやすいものとなります。逆に言うと自分の範疇を超えている場合は1人では太刀打ちできないので、それができる人を巻き込みながらアプローチを模索するとよいでしょう。
| 要素 | 観点 |
|---|---|
| 不確実性・リスク | 課題が具体的で明確か, 必要な材料が揃っているか, ベストプラクティスがあるものか, 影響範囲やリスクが大きいか, リカバリーが効きやすいか |
| 時間的制約・緊急度 | 決定までの時間的余裕があるか, 緊急性が高く即座の判断が必要か, 後から修正する時間的余裕があるか |
| コスト・リソース | 必要な予算や人的リソース, 機会損失の大きさ, 代替案の検討コスト |
| 可視性・透明性 | 決定プロセスが見えるか, 結果が測定・評価しやすいか, 他のメンバーが理解しやすいか |
| 組織的な権限・責任 | 自分の裁量範囲内か, 上位承認が必要か, 他部署との調整が必要か |
| ステークホルダー | 関わる人数や組織の数, 利害関係者の意見の一致度, 合意形成の難易度 |
| 学習・成長機会 | 失敗しても学びになるか,チーム全体のスキル向上につながるか,将来の類似課題への応用可能性 |
ものごとへの関わり方は、試行錯誤を続けることである日大きく広がるはず
色々書いてきましたが、正直この blog を読んだだけで「よし、バンバン染み出してやれることを広げるぞ!」とならないこともあると思います。ものごとには様々な力学が働いており、心持ち一つでうまくいくわけではないとも思っています。
ただ一つ言えることがあります。それは、実際にものごとの関わりを広げるには、経験を通して腹落ちしていく必要があるということです。
野球のメジャーリーガーで活躍する菊池雄星選手がこのような話をされていました。
コツコツうまくなっていくんじゃなくて、ずっと停滞をしていて、きっかけひとつでうまくなるんだなあと。
このきっかけを掴むために、ぼくらは練習するんだなって思いました。それは、今でも自分の考えの根本にありますね。
引用: (5)きっかけに出会うための練習。 | きみがマウンドの王様になる日まで。菊池雄星×糸井重里 | 菊池雄星 | ほぼ日
(菊池選手のインタビューでもよくこの話をされているので、気になる方は YouTube などで検索してみると面白いかもしれません)
これは野球での事例ですが、仕事の中でも似たようなことがあるのではないかと思います。何度もフィードバックをもらい改善しようとしていたことが、ふとした誰かからのアドバイスや出来事でこれだ!とわかりうまくいくようになったり、今まではなんとなく概念だけでピンと来なかった設計思想がある時ふっと腑に落ちてコードに落とし込めたり。そんなふっと身に付く、知識が腹落ちする瞬間を感じたこと・聞いたことがあるのではないでしょうか?
この腹落ちする瞬間には、意識をしながら機会を得るために試行錯誤するからこそ出会えるものだと思います。そのためにも、とにかく経験を重ねられるよう小さな体験が重要だと考えています。
もし迷いがある人は、実際にマネージャーや、あなたから見て意思決定をしているなと思う周囲の人に話を聞いてみてください。きっとその人もあなたと似たような経験をしていると思います。そして、あなたがもし少しものごとへの関わりを広げようとしているなら、きっとあなたの味方になってくれるはずです。
また、振り返りや PDCA サイクル、アジャイルの考え方など、経験から学ぶ姿勢を大事にする考え方は一般的になっています。それは「失敗して攻めよう」を開発文化のひとつに掲げているfreeeでも同じです。思い切って挑戦し経験を広げる動きを試してみてはいかがですか?
