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マジ価値を目指した全員野球

この記事は freee Developers Advent Calendar の13日目です。

佐々木大輔の写真

freeeのCEOの佐々木大輔です。freeeを創業してから6度目の冬。最初の冬は、一日中マンションに籠ってコーディングしてたので、外に出るにしてもコンビニくらいで、今の時期でもビーサンはいてたのを懐かしく思います。

さて、今回はユーザーが増えるためのSaaSの必須要件とfreeeのその取り組みについてまとめてみます。以下文語調。

SaaSビジネスは技術に立脚した全員野球だとよく思う。組織全体でマジ価値に向かって一丸となって進むことによって進化する。ひとりよがりで開発をすることでは育たないし、とにかく売ることだけを考え、実が伴わないようでは意味がない。開発も販売もカスタマーサポートも、そしてまたコーポレートも一丸となることで、強いプロダクトづくりが可能になっていく。

ユーザーが増えることの重要性

まず前提として、強い SaaS 製品を育てていく上では、ユーザーが増えることは非常に重要である。もちろん、顧客セグメントに応じて、ターゲットとなりうる顧客数の上限が変わってくる訳なので、ある顧客数に対してそれを多いと捉えるか少ないと捉えるかはターゲット顧客セグメントによって変わってくるのであるが、基本的にはより多くのユーザーに使われることを目指していくべきである。

ユーザー数が増えるのは SaaS にとって以下の点で重要である。

  • ユーザー数が増える⇛よりプラットフォームとして進化するための開発投資ができる
  • ユーザー数が増える⇛より多くのフィードバックを受け改善できる
  • ユーザー数が増える⇛より多くのユースケースに触れる、あるいは新しいユースケースが開発される場面などにも遭遇する
  • ユーザー数が増える⇛改善のためのデータが増える
  • ユーザー数が増える⇛データがたまりAIを活用しさらにプロダクトに付加価値が産まれる(例えば、操作しなくともさまざまなものが自動推測可能になっていくなど)

つまり、より使われている製品であることは、指数関数的に大きな価値を産む。もちろん、こういったスケールメリットのようなものはいろいろな産業にもあてはまるものではあるが、自社の運用するサーバー上でアプリケーションを動かし、ダイレクトに顧客接点を持ち、ソフトウエアによってダイレクトに顧客に届ける SaaS ビジネスであればこそ、特にその傾向は強い。

Tokyo Rainbow Pride出展時の写真

では、どうすればユーザーは増えるのだろうか

では、どのようにすれば、より多くのユーザーに使っていただける製品になるのか。その要件は重要度順に次の通りだと考える。

  1. 価値を発揮していること
  2. 製品のトラックレコードとビジョン
  3. 価値を効果的に伝えられるかどうか

1. 価値を発揮していること

もっとも重要なことがこれ。価値を発揮していなければ製品を提供する意味がないのは当然だ。顧客満足度との違いは何かといわれると、おそらく顧客満足度とは違うレイヤーにいるものであって、価値の発揮は顧客満足度に対しては構成要素の一つとも言えるであろう。例えば、価格が下がれば顧客満足度は上がるかもしれない、といったように顧客満足度という結果指標は複合要因の結果だ。なので、そこから一歩踏み込んで、価値の発揮に着目することで、ぶれずに改善に取り組むことができるし、アクションが明確になっていく。

もちろん、満足度指標は重要で、何かしらの不満やあるいは満足を産んでいるような別要因の発生を特定し解消することに利用できるため、当然ウォッチするし、改善につとめるべきだが、さらにその奥に潜む、価値の発揮をしっかり見ていきたい。

また価値の発揮に着目することで、プライシングなどの課題とも向き合いやすくなる。シンプルに言えば、

SaaSの顧客への便益 = (SaaSが顧客に発揮した価値)ー(価格)

であるから、このような位置づけで、最終的な便益の側から価格を考えていくことができると価値を提供する基盤として盤石であると思う。

2. 製品のトラックレコードとビジョン(将来像)

SaaS 製品は常に進化し続ける。進化し続けることに意味がある。だからこそ、その製品がこれまでどのように進化をしてきたかというトラックレコードは非常に重要である。しっかりと進化をし続けているトラックレコードを持っている製品には、当然それがさらに進化をしていく期待が自然とかかる。トラックレコードがなければ、「今後進化する」という話の信憑性は残念ながら低くなる。

そして、常に進化し続けるからこそ、このトラックレコードに加えて、この製品はどのような方向に向かうのかというビジョンのベクトルも重要だ。今後向かうビジョンのベクトルが過去のトラックレコードが示してきた方向性と同じであれば、それは強く期待できるし、今後向かうベクトルが過去のトラックレコードが示す方向性と一致しないようであれば、若干信憑性は下がるであろう。

触ることができるモノや、あるバージョンの製品を販売するということではないからこそ、より多くのユーザーに使っていただく上で、非常に面白いポイントとなるのがトラックレコードと未来のベクトルだ。

3. 価値を効果的に伝えられているか

その製品がどんな価値をもたらすのか。どれほどの時間を削減したり、あるいは何か別のものを代替できたり、直接的に利益をもたらしたり、従業員満足度を高めることができるのか、これらの価値を効果的に伝えることができなければ、当然ユーザーは増えない。このストーリーをしっかりと強く描くことは当然重要である。

面白いのは、この部分がしっかり回っていなければ、製品自体も誤った方向性に進んでしまう可能性がある。スマートフォンが出回り始めたころ、タッチパネルもキーボードも両方装備したスマートフォンが続々と発売されたのを覚えているだろうか?市場ではタッチパネルに対する懐疑的な見方が多く存在していたということだ。

この頃、僕はGoogleにいたが、ひとつよく覚えている出来事があった。あるとき、社内で動画が送られてきた。動画の内容は、「BlackBerry 利用歴何十年の自分と、タッチパネルネイティブの息子でBlackBerryとスマホでタイピング対決をする」というものだった。結果、息子が勝利するのだが、僕はこれを見た時タッチパネルの未来を確信することができた。このように、強い価値の表現を持っていれば、より鋭い価値の追求を行っていくことができるのだ。

freeeの社内の写真

全員野球でマジ価値を届ける

上記の3つのポイントをおさえるためには、全員野球であることは欠かせない。開発、セールス・マーケティング、そしてコーポレートまでも一体となってfreeeの価値基準である「マジで価値ある:ユーザーにとって本質的な価値があると信じることをする」を実践することが3つのポイントにつながっていく。

具体的には、

カスタマーサポート
顧客体験として製品の中に組み込まれているため、SaaSにおいては製品=サービスであり、カスタマーサポートも製品そのものといえる。それに加え、より多くのお客様と接することで、より価値を発揮するためのヒントや価値を発揮する上でのボトルネックを発見する。
カスタマーサクセス
まさに価値を発揮する部分をプロアクティブな導入支援や活用支援を通じて人的にも支援する。価値を発揮する上での明確なボトルネックを明らかにすることができる。
セールス・マーケティング
効果的に価値を伝え、より尖った価値を磨ける素地をつくる。ビジョンを語り、潜在ニーズを検証する
コーポレート
freee の No.1ユーザーとなる。自社製品を使いこなし、最も進んだ未来のバックオフィスを実現し、freeeの価値の発揮の究極のかたちとなることを目指し、ボトルネックを明確化する
全員
徹底的に SaaS 製品を使う。freee では、あらゆる分野に世界のトップレベルの SaaS 製品を利用し、ビジネスを進めている。全社員が SaaS のヘビーユーザーであるが故に価値の発揮をイメージし、ビジョンに向かって進み、その価値を効果的に伝えられる素地となる

開発チーム(エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャー)は、これらのフィードバックや支援を活用しながら、製品コンセプトによりいかなる価値を発揮するか定め、ビジョンを描き、トラックレコードをつくっていく。あわせて、技術的ブレイクスルーを創出し、本質的な課題解決を自由な発想から考えていくことで、価値の発揮に向けた開発・改善を繰り返す。

また、社内の他部門からのフィードバックが充実していても、開発チームは直接の顧客ユーザーとの対話の機会を持つことが重要である。それにより、様々なフィードバックがよりビビッドに解釈できるようになっていく。

集合写真

このように、マジ価値を届けるための全員野球をプレーしていくことにより、ユーザーは増え、ユーザーが増えることで SaaS の価値は大きく向上する。来年もさらに特に「価値の発揮」にこだわる一年にしていきたいと思う。

ということで、参考になったでしょうか。次はfreeeの水先案内人、仙波さんによる14日目です。