2019年、freeeのアクセシビリティを振り返る

この記事はfreee Developers Advent Calendar 2019の24日目です。こんにちは、freeeの@magi1125こと伊原です。あだ名は「アクセシビリティで一発当て太郎」です。いまはデザインリサーチチームのマネジャーをやっています。

この記事ではタイトル通り、2019年のfreeeにおけるアクセシビリティ関連の出来事をご紹介します。なお、2018以前の活動については「2018年、freeeのアクセシビリティを振り返る」をご覧ください。

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※アクセシビリティの向上とは、障害者高齢者を含めた幅広いユーザーに利用方法の選択肢を提供し、使える状況を広げる取り組みを指します。

12月26日追記: 本記事にインスパイアされたとのことで、@masup9が同様の振り返り記事をまとめています。こちらもぜひご覧ください。

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ユーザーとの出会い

今年のホットトピックとしては、アクセシビリティを必要とするfreeeユーザーと出会うことができた点が挙げられます。ふくろうアシストという屋号で視覚障害者向けのPC講師業を営む河和さんは、NVDAというスクリーンリーダーによって会計freeeを使っており、その様子を取材することができました。なおiOS版のfreeeも併用しているとのことです。

写真:ふくろうアシストへ訪問した際の記念撮影。河和さん、中根さん、RyoAbeが笑顔で写っている

実際に利用している状況のデモも行ってくださいました。なお、freeeの全盲エンジニア中根さん(@ma10)は事前にfreeeのアクセシビリティ上の課題を把握しているわけですが、河和さんもほぼ同じ課題認識であり、「そうそう、ここが厳しいんだよね」と盛り上がりを見せる一幕もありました(直さねば……!)。

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同様に、スラッシュという視覚障害者向けのパソコン教室を運営している山賀さんはAndroid版の会計freeeを利用しており、実際にユーザーフィードバックも寄せてくれています。

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アクセシビリティが商談にも関わる

もうひとつの象徴的な出来事は、聴覚障害がある方に対し「UDトーク」という音声認識・文字起こしアプリを使っての商談にトライしたことです。

商談にあたるスタッフが普段通りに発話で対応でき、またデモ画面を見せながら説明するにはチャットより音声認識の方がやりやすそうだというのが、その理由です。

写真:UDトークを使って音声を文字起こししつつ、リアルタイムに修正しながら商談を行っている様子

一般社団法人しかくでオンライン手話教室などを運営する伊藤さんに、商談に際しUDトークでのコミュニケーションをお願いし、実際に料金プランに関する質疑応答などを行うことができました。完全とはいえないものの、商談自体はきちんと行うことができました。

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この他にも、スクリーンリーダーで利用できる人事労務ソフトを探しているという会社様や団体様からお問い合わせいただき、アクセシビリティを前提とした商談も数件ほど発生しました。

昨年に全盲エンジニアの中根さんが入社し、個人事業主として、またfreeeの従業員としてプロダクトを活用する中根さんの存在によって、アクセシビリティを必要とするユーザーが可視化されました。しかし、中に居る人が関わるのと、外にもユーザーが居るのとではまったくインパクトが違います。会社の外にもユーザーが実在するということは、それがセールス、導入支援、サポートの対象であると認識されるという点で非常に大きな影響がありました。

ユーザーにリーチするために

上記のように、いままでは製品開発上の話に留まっていたアクセシビリティの話が、実際に事業にも関わってくるという点で、さらに現実味が増してきました。

こういった状況を生んでいくために、広報にも力を入れました。もっとも大きいものとしてはフジテレビで特集されたことでしょう。中根さんを中心に約5分間に渡り、freeeのアクセシビリティへの取り組みが紹介されました。個人的には、地上波で「ウェブアクセシビリティ」という言葉が使われたのは画期的なことだと考えています。

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加えて、以下4件の記事もリリースおよび取材対応し、ここからユーザーとの出会いや商談へと繋がる結果になっています。

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問い合わせフォームに「アクセシビリティの問い合わせを受け付けている」ことも明言しました。

スクリーンショット:freeeのサポートデスクへのお問い合わせ画面。問い合わせの種類の選択肢に「プロダクトへのご要望(機能改善やアクセシビリティ対応など)」と記載されている

アクセシブルな製品が世間的にはまだまだ少ないなかで、それを必要とするユーザーは「言ったところで変わらない」「使えなければ他に行くだけ」とある種のあきらめをもっている可能性があります。逆に、提供側が明示的に取り組んでいることを表明すれば、アクセシビリティを必要とするユーザーが問い合わせを行う可能性が出現し、結果としてそういうユーザーが存在することを認知できると考えています。

アクセシビリティを推進するメンバーは、名刺に点字も入れました。

freeeの伊原の名刺。会社名、名前、メールアドレスの点字が入っている

点字を使用するユーザーに手渡すときに必要というだけでなく、アクセシビリティに取り組んでいることを意思表示するツールとして有効でした。晴眼者に手渡すとほぼ必ず「点字入れてるんですね」という話になり、そこからアクセシビリティの話に繋げられるという具合です。ちなみにすでに印字された名刺に対し、あとから点字を追加できます(日本点字図書館さんにお願いしています)。

開発への定着

こういった活動ができるのも、プロダクト側のアクセシビリティが少しずつ改善されているがゆえです。今年のリリースで大きかったのは、人事労務freeeにおける年末調整機能のスクリーンリーダー対応です。freee社では、中根さんが実際にこれを使って年末調整の情報提出を実施しています。

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そのあたりの話は、新卒エンジニアのスポーンくんが詳しく書いてくれています。「アクセシビリティにワクワクした」良いですね!

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そのほか、各プロダクトで少しずつではありつつも着実にアクセシビリティへの取り組みが進んでいます。

  • 開業freee:サインアップ、ヘッダメニュー、ナビゲーション等に対し、キーボード操作やスクリーンリーダー読み上げの改善。
  • 会計freee iOS版:「自動で経理」をVoiceOverで操作可能に。料金プランなどのガイドページのアクセシビリティ改善。
  • 会計freee Android版:全体的にTalkBackでの読み上げを改善。料金プランなどのガイドページのアクセシビリティ改善。
  • 人事労務freee:従業員向け勤怠入力画面に対し、キーボード操作やスクリーンリーダー読み上げの改善。
  • 資金繰り改善ナビ:主要画面に対してアクセシビリティチェックを行い、致命的な問題点を把握。
  • 申告freee:キーボード操作およびコントラスト改善から取り組むため、現状調査を行い対策を検討。

会計freee iOS版のVoiceOver対応については、こちらの記事もご覧ください。具体的な対応方法を解説しています。

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なお、改善プロセスとしては以下のような形です。

  • プロダクトごとのOKRにアクセシビリティ改善を盛り込む
  • アクセシビリティチェック方法をドキュメントやハンズオンでサポート
  • 課題が見つかったらバグとしてJIRAやGithub Issueに記載
  • スプリントで改善を回していく

アクセシビリティチェックについてはドキュメントとハンズオンを組み合わせてチームで進めてもらうようにしました。

スクリーンショット:「俺のアクセシビリティチェック」と題したドキュメント。ツールやスクリーンリーダーを使ったチェック方法を記載している。

結果として、スプリントレビュー時にコンスタントにアクセシビリティ改善に関する内容が挙がってくるようになりました。

アクセシビリティ向上を社内に伝えるスライド。開業freeeのメニューのキーボード操作を可能にした旨が、スクリーンショットとともに記載されている。

こういった取り組みが形になっていった結果、開発者向けイベントで登壇するメンバーも増加しました。特に関西支社は、開発メンバーで団結して取り組んでいる印象があります。

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freeeでは、このようなプロダクトごとの個別のチューニングと、デザインシステム「Vibes」の適用による包括的な改善という両面からアクセシビリティに取り組んでいます。そのあたりの詳細はぜひid:ymrlのスライドと記事をご覧ください。

speakerdeck.com

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社内でもっと当たり前にするために

プロダクトをアクセシブルにするためには、そもそもアクセシビリティとはなにか、その意義はどこにあるのか、といったあたりを考え方の前提として組み込んでいくことが必要です。

その一端として、まずデザイナーのコアスキルにアクセシビリティを据えることになりました。前述のデザインシステムを運用していくという状況もあり、アクセシビリティへの理解はデザイナーとしては必要不可欠になったからです。

スクリーンショット:スキルマップ
freeeのデザイナーのスキルマップの一部。UI設計の欄に「業務要件を取り入れたUI設計を、サポートを受けつつデザインシステムおよびアクセシビリティ基準に則って行える」といった記載がある

2年ぶり2度めの、書籍「デザイニングWebアクセシビリティ」の著者(私です)による輪読会もスタートしました。

それと同時に、エンジニアやビジネス職問わず、アクセシビリティについてはfreee入社時に概念を理解してもらえるよう、新卒研修や中途入社時のダイバーシティ研修を都度実施していく体制になりました。

写真:中途入社向けの社員研修の様子。中根さんがアクセシビリティについてプレゼンテーションを行っている。

様々な利用状況を理解するため、定期的にスクリーンリーダーによるデモ会を開いたり、専門家をお呼びしての講義も実施しています。

写真:中根さんが自動で経理のデモをしている。手元のiPhoneで「自動で経理」を操作した結果が、スクリーンにミラーリングされている。
中根さんによる、会計freee iOS版の自動で経理を操作するデモの様子

写真:伊敷さんがPCに顔を近づけて画面を見ている。プロジェクターには拡大して色反転された画面がミラーリングされている。
アクセシビリティ専門家 Cocktailz 伊敷さんによる、ロービジョンにおけるPC利用状況のデモ

写真:伊賀さんによるスライドを使ったプレゼン。iOSの色の調整画面を表示している。
カラーユニバーサルデザイン専門家 CUDO 伊賀さんによるプレゼンテーション

きちんとした勉強会以外にも、気軽にアクセシビリティに触れられる場も用意しています。その一つがアクセシビリティサロンです。id:ymrlの発案により毎月の決まった時間に開催し、ただお菓子を食べながら雑談するだけの場が設けられました。生活におけるアクセシビリティの話がよく出てきて、これはこれで別の面白さがあります。

写真:小さなホワイトボードにアクセシビリティサロンの題字が書かれている。その裏にはお菓子や参加者の手が見える。

そこから派生したのが、先日記事になった「音だけで焼肉を焼く」という研究会、焼肉・イン・ザ・ダークというわけです。

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このように硬軟織り交ぜた形でさまざまなアプローチを行い、社内でアクセシビリティについて知っている人は少しずつ増えて来ています。しかし、それ以上のスピードでfreeeの社員が増えている印象もあります。

こういった記事を書くと「アクセシビリティへの取り組みは盤石である」という感じを受けるかもしれませんが、実際のところはあらゆる手を使ってなんとか「当たり前にアクセシビリティを考える人が多勢になる」という状況を作ろうともがいている……といった表現のほうが適切かもしれません。

今後はより研修の体制を強化していくと共に、freee アクセシビリティーガイドラインを制定し(中根さんが執筆しています)、それをプロダクト以外にも共通して適用することで、freeeのアウトプット全体がアクセシブルになるように取り組みを進めていく予定です。なお、このガイドラインは一般公開する想定です。お楽しみに。

スクリーンショット:freeeアクセシビリティーガイドラインの表紙。

業界でのムーブメント化に向けて

記事の冒頭で、アクセシビリティを必要とするユーザーに出会ったり、商談が発生したりというトピックをご紹介しました。これも、現時点では針の穴に糸を通すような確率で偶然出会うことができ、かつfreeeのアクセシビリティはまだ高くないにも関わらずなんとか使えるという高度なスキルを持つ人だったからこそ成立している話です。

今年の11月、サイトワールドという視覚障害者向け総合展示イベントにて「NVDA相談会」というセミナーに登壇しました。スクリーンリーダーの日本語化や普及を行っている方々と、B2B向けクラウドソフトを提供しているクラウドサイン、ChatWork、サイボウズ、freeeの面々が共に出演し、視覚障害当事者における就労環境の現状や、各クラウドソフトの対応状況などを意見交換するというセッションでした。

写真:NVDA相談会の会場の様子。着席する参加者と、登壇者、スクリーン。

私がこのセッションで感じたことはふたつあります。ひとつは、アクセシビリティへの取り組みを話すなら、もっと積極的に「必要とする人」のもとへ行って話さなければならない、ということです。開発者コミュニティのあいだで話題になっていても、それはユーザーには届きにくいものです。幸い、私はfreeeでユーザーリサーチを行う部署にいます。リサーチとデザインとアクセシビリティを分け隔てなく対応していくことが必須であるという思いを新たにしました。

もうひとつは、「もしかしてfreeeだけがアクセシブルになっても、世界は変わりにくいのではないか?」ということです。freeeを利用するためには、ある程度高度なスクリーンリーダーの使いこなしを要求されます。しかしながら、このイベント以前に視覚障害当事者や障害者団体にインタビューをした感じからすると、そのスキルにはかなりのバラつきがあるのが実情でした。

そもそも、ユーザーがそういった学びを得る状況を作るには、クラウドソフトを使いこなせるようになるコストを払う分のリターンがあると、就労環境を整備する会社側・団体側や、ユーザーにもそのことを理解してもらわねばなりません。それは会計や人事労務という領域を扱うfreeeだけでは、コストパフォーマンスが合わないはずです。

今回いっしょに登壇したクラウドソフトベンダーはもとより、スクリーンリーダーなどの支援技術ベンダーも含め、各社が協調(ないし競争)して、就労環境の改善に取り組んでいかなければ、と私は考えました。逆に言えば、そういったムーブメントが起こせれば、自身が開業したり、新たな雇用を創出したりといった社会参加への取り組みがより促進できるはずなのです。

俺たちの戦いはこれからだ

中根さんはよく「たとえ僕がfreeeを辞めたとしても、当たり前に取り組みが継続されるようになっていなければならない」と話しています。旗振りが変わっても活動が維持されるようにならなければ、ビジネスとして成立したとは言えません。

来年春、freeeには全盲エンジニアの野澤くんという、強力な仲間が参加してくれます。いまはインターン中ですが、すでに会計freeeのアクセシビリティ改善のPRをバンバン出してくれています。将来が非常に楽しみです。

joshi-spa.jp

careerhack.en-japan.com

このこともきっかけの一つとして、freeeでのアクセシビリティへの取り組みは進捗するでしょう。ただ、前述のような就労環境の改善、雇用の創出といった大きな夢に向かっていくには、さらなる圧倒的なムーブメント化が必要です。では一体どうすれば?

思えばfreeeは、特に気にすることがなかったけれども、中根さんにとってはアクセシブルな就労環境だったわけです。それはクラウドソフトを活用し、紙が一切ない職場だったからです。そのことは特に中根さんのためというわけではなく、社員全員にとってそのほうがいいから、そうなっていたのです(詳しくは昨年の記事を参照)。

そのように、うまくソフトウェア同士の組み合わせの妙を見出し、全体のメリットと整合を取っていくことで、アクセシブルな就労環境への道は近づいていくのではないか?私はそんな風に考えています。ウェブアクセシビリティは Essential for Some, Useful for All のはずだから。

君もやってみないか

freeeのミッションである 「スモールビジネスを、世界の主役に。」を実現するために、私たちの戦いは続きます。そして、それをより促進するための仲間を、私たちは募集しています。

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まずは年明けの freee Tech Night に遊びにきてください。

freee-tech-night.connpass.com

そのほか、割とコンスタントにアクセシビリティ関連のイベントを主催したり、外のイベントに登壇したりしています(今年は、アクセシビリティ関連のイベントにfreee全体で18件ほど登壇したようでした)。見つけたらぜひお気軽にお声がけください。

明日は最終日!CTOの@yokojiです。