2018年、freeeのアクセシビリティを振り返る

この記事はfreee Developers Advent Calendar 2018、およびWebアクセシビリティ Advent Calendar 2018の8日目です。

こんにちは、freeeの@magi1125こと伊原です。UXデザイナー/インフォメーションアーキテクトを経て、現在は人事労務freeeという素敵なサービスのプロダクトマネジャーを担当しています。

社内ではたまに「一発当て太郎」と呼ばれています。昨年10月にfreeeに入社したのですが、その理由が「アクセシビリティで一発当てた事例を作る」というものだったからです。Webアクセシビリティの書籍を出したり登壇したりという活動を進めるなかで、その分野をもっと盛り上げるには成功事例を作らなければ、と考えた次第です。

この記事ではタイトル通り、2018年のfreeeにおけるアクセシビリティ関連の出来事をご紹介します。なお、今年2月以前の活動については下記をご覧ください(これを踏まえて読み進めていただくと、より進捗度合いが理解いただけるかと思います)。

docs.google.com logmi.jp

全盲エンジニアの電撃入社

f:id:rikiha:20181208225815j:plain
中根さんによるfreee社内講演の様子

今年のもっとも大きなトピックとしては、全盲のエンジニアである@ma10こと中根さんが6月に入社したことでしょう。ビジネス上で必ず関わるであろう、会計や人事労務といった領域がアクセシブルになることは、障害当事者の社会参加という観点において大きな意義がある……という点で意気投合し、ご参加いただいた次第です。

中根さんはもともと個人事業主として(実に4年前から!)会計freeeのユーザーであり、使い始めの頃にフィードバックを送ってくれたり、今年の2月にもユーザーインタビューに応えてくれたりと、何かとfreeeには縁がありました。

現在、中根さんは人事労務freeeのアクセシビリティ改善担当として日々Pull Requestを出したり、仕様のレビューを行ったりという形でご活躍頂いています。もちろんアクセシビリティ専任のエンジニアを社内に擁したという点でも十分に画期的ではありますが、freeeに中根さんが入社したことにはそれ以上の意味があると私は考えています。

最初の仕事は勤怠打刻

中根さん入社時における印象的なストーリーがあります。それは、中根さんの最初の仕事は「人事労務freeeのiOSアプリを使って勤怠を記録すること」だったという話です。

人事労務freeeは勤怠管理・給与計算・行政手続き書類の出力といった業務を一気通貫で行えるプロダクトです。ただし、管理側がそれらの業務を円滑に行うためには、従業員側がインプットとして勤怠入力を行い、また計算結果としての給与明細を受け取れる必要があります。

そして、人事労務freeeは実際にfreee社のバックオフィスを支えるツールとしても使われています。freeeの従業員はみんな人事労務freeeを使って勤怠を打刻し、給与明細を見ているわけです。つまり中根さんが入社するということは、全盲である中根さんもそれを同様に行えなければならない、つまり人事労務freeeがアクセシブルであらねばならない、ということを意味しています。

幸い、人事労務freeeのiOS版アプリは中根さんの入社前に(@RyoAbeが)スクリーンリーダー対応を行っていたので、中根さんにはそれを使って勤怠を記録してもらいました。その様子は中根さん自身がポッドキャストで話していますが、結論から言うと「けっこう良くできている」と評価してもらえるものでした。

www.youtube.com

すべてが可能性に繋がった瞬間

このとき、私はホッと胸を撫で下ろしたと同時に、これはとても大きな変化ではないか?と興奮したことを覚えています。そこには3つのポイントがあります。これらのポイントが繋がって見えたとき、そこに私は改めて大きな可能性を感じました。やはりここなら、アクセシビリティによる勝利が現実のものになるかもしれない、と。

1. アクセシビリティの必要性が具体化された

いままでにおいても、アクセシビリティはもちろん必要なこと、あるいは重要なことと理解はされ、対応を進めることで品質は確実に向上していたはずです。とはいえ「それを必要とする人は具体的に誰なのか?」「対応した結果がどうなるのか?」という点については、もうひとつハッキリしていなかったと思います。それが「これをやれば、確実にこの社内の1人が使えるようになる」と変化したわけです。このことはチームのモチベーションを明らかに数段階上昇させました。

また、実際に提供している製品を社内でも使っていることによって、「中根さんが使えるようになること」と「エンドユーザーのアクセシビリティ」に強い相関が生まれることも大きなポイントです。もちろんユーザーの状況は多様であり、中根さんが使えれば誰でも使えるわけではありませんが、「誰かが使えるようになっているはずだが、それが誰かはわからなかった」という状況からは、かなり前進していることは間違いありません。

2. プロダクトへの直接的な価値が見出された

視覚障害者にとって、従前のタイムカードや紙の給与明細は、自分で扱えず、しかし人に見てもらうのも微妙という、やっかいなシロモノです。頻度が低い手続きやパブリックなものであれば誰かに代打してもらうのも比較的簡単ですが、勤怠や給与明細は、当人以外だと限られた人しか扱えません。その限られた人のリソースが特別対応で割かれていくことは、会社全体の生産性を下げることに繋がります。

しかし、スクリーンリーダーに対応したアプリで勤怠を記録したり、給与明細を閲覧できるのであれば、ユーザーはそれらを自力で扱えるようになります。このようなプライバシーを伴う日常的なルーチンワークが自力で行えるということは、障害当事者が助かるだけでなく、管理コストを軽減して生産性を改善するという観点でも非常に重要です。それは、人事労務freeeの価値のひとつであるバックオフィスの効率化と密接に結びついています。

3. 障害当事者が活躍できる職場の在り方に繋がった

freeeでは、人事労務freeeをアクセシブルにすることに、中根さんが直接関わることができます。紙の資料が社内にほぼ存在しないからです。

paperhack.jp

紙からの脱出を促すツールを提供する会社である以上、社内でも紙でやりとりするのはナンセンスであるということで、業務に関わるすべての資料はGoogleドキュメントとして提供されています。コミュニケーションもSlackやWorkplace(企業向けFacebook)で行っており、当然GitHubもフル活用しています。その結果として、中根さんは社内のかなりの割合の情報に自身の力のみでアクセスできる状況があります。

この状況そのものが、社内ツールにおけるアクセシビリティの価値を証明しています。多様な属性、多様な状況の人が、等しく情報を扱い、それを元に腕を振るえる。それを実現しているコアは、情報をデータとして扱い、さまざまな方法で入出力できるようにすること、つまりアクセシビリティです。先陣を切ってそこに取り組んでいるツールを駆使しながら、自分たちのプロダクトもまた、その流れに載せていく。このメタ的な構造が、とてもDeveloper的であると感じます。

その後のアウトプットや仕込み

こういった気づきをもとに、まずは人事労務freeeにおける、特に従業員向け機能のアクセシビリティ改善に対応していくことになりました。具体的な取り組みは以下のとおりです。

障害者の法定雇用率が上昇するという風向きも考慮しつつ、適切な粒度で改善しやすいところから着手することで成功事例を積み重ねる狙いもありつつ、といったところです。

また、並行してReactコンポーネントによるデザインシステム「Vibes」の開発も進めています。断片化したUIを統合・刷新することで一貫性を高め、開発生産性向上やユーザビリティ向上を狙う本プロジェクトですが、もちろんアクセシビリティ対応も組み込まれています。

  • キーボード操作の挙動を詳細に検討
  • storybook-addon-a11yの導入
  • デザイン時やコード上でのコントラストチェック

来年から段階的にこのコンポーネントに置き換えていくことで、freeeのさまざまなプロダクトのユーザビリティおよびアクセシビリティを順次改善していく予定です。

f:id:rikiha:20181208215358p:plain
freeeの次期デザインシステム「Vibes」のコンポーネント集のスクリーンショット

こういった活動を社内に理解してもらうための取り組みも、より積極的かつ継続的に行うようになりました。

freeeには既に400人を超える従業員がおり、さらに新卒や中途で毎月多くの人が入社しています。そのため、社内講演・入社時研修・Workplace上での動画配信などを組み合わせながら「そもそも障害にはどんな種類があるのか」「どのようにPCやスマートフォンを使うのか」といった基礎的な内容を繰り返し伝えていく形を取っています。

f:id:rikiha:20181208215922p:plain
中根さんによるスクリンリーダー利用時デモの告知を社内SNSに流している様子

freeeのアクセシビリティ、さらにこれから

2月に登壇した「freeeのアクセシビリティ、いまとこれから」の時点では、会社としてはアクセシビリティに関しては「関心がある」状態だとお伝えしていました。いまは着実にその上の「投資している」段階に踏み込みつつある状況だと言えます。

確かに、中根さんの参加によって必要性が具体化され、製品の価値に繋がりそうな芽は見えました。新しいデザインシステムにおいても品質観点で投資できるようになってきています。社内での理解も進み、コアメンバーだけでも10人以上、スポットも含めたら数十人以上が開発・デザイン・サポート・広報などの文脈で協力してくれるようになりました。

ただ、ここから更に取り組みを加速するには、逆に落ち着いて練り直さなければならない部分があると感じています。

プロダクトマネジャーは、製品における開発投資先の検討を会社から預かっている立場です。であればこそ、会社のミッションとアクセシビリティはどのような関係にあるのか、ビジョンに繋がる存在としてのプロダクトのロードマップにアクセシビリティはどういう影響をもたらすのか、そこを明示せねばなりません。対応に一定の割合を割くことが適切な判断であり、正しい投資であると信じるに足る根拠を。

ただひとつ確かなのは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というfreeeのミッションには、明らかに「多様性を持つ社会のほうが強い」という前提があるということです。

多様な人が多様な形で働くことを支える、そのほうがメリットがあると実感できる

私は、freeeをそんなプロダクトにしていきたいと考えています。また折を見て進捗をご報告できればと思いますので、次回をお楽しみに!

最後に

この状況をさらにアップデートしていくため、freeeではパッション溢れる仲間を積極採用中です。この記事の結びにもあるように、まずはfreee自身が、障害当事者やLGBTQも含めたさまざまな人たちが活躍している現場にならねばと考えています。お声がけをお待ちしております。

jobs.freee.co.jp

明日は以下の方々です。

お楽しみに!