この記事は freee Developers Advent Calendar の 25 日目の記事です。
こんにちは、横路です。 freeeで共同創業者CTOを担当していて、いまは技術戦略や共通基盤チームづくりを主にやってます。
今年は、これまで情熱と根気だけでスキルを身につけてきた1人のおじさんが、子育てなどのライフイベントを経て自分の学びの型を見直した話をします。最近そういえば新しいチャレンジ出来てないなあとか、やりたいけど全然時間がなくて…という人に勇気を届けたい。
自分の学びの型のサビに気づいたきっかけ
今年、コロナで会食が減って浮いた時間の一部を使って、ワインエキスパートの資格をとりました。
正直言って深く知る前はワインが特別好きというわけではなかったのですが、きっかけは、ワインが好きな知り合いが意味のわからない単語の羅列を本当に楽しそうに話している姿を見たことでした。それはまさに、エンジニアリングを学び始めたての頃に自分が憧れた光景で、懐かしくもあり、いつしか自分が失っていた知の渇望の感覚でした。
今回、ひさびさに自分が全く土地勘のない領域でゼロから体系的に知識を身につけていく過程で、自分の学び方の癖にあらためて気づき、学び方そのものに対する自分の認識をアップデートしていく必要を強く感じたので、備忘録的に残しておきます。
これまでの自分の学びの型
もともと自分は、興味のあることがあると集中的に時間をかけて打ち込むことで、独りで一気に深く学ぶタイプでした。座学は得意だが手を動かすとなると不器用で、実践から学んで身につけるのが苦手。いま思うと、観察が下手なのか、手本を見て絵を描いたり体を動かすことが昔から極端に苦手でした。
また強すぎる自尊心で、出来ない自分と向き合い他人に頼って改善することを意識的に避けてきました。それでも興味を持ったことには効率度外視で時間をかけて取り組み、夢中になってやっていたらいつの間にか出来るようになっていた。それが自分の過去の学習スタイルでした。
いつの間にかコンフォートゾーンに安住し、ゼロから学ぶ機会を失っていた
そして子供が生まれ、自分のために使える時間が減る中で、実はこれまでの自分の学びのセオリーがまったく使えない環境になっていたのですが、そもそも技術も含めて体系的に何かをゼロから学ぶこと自体がほぼなくなってしまっていました。
GREE藤本さんの受け売りですが、ある程度エンジニアリングの経験やスキルがあると、多くの技術的課題を(実際にやっていなくても)抽象的に机上で理解できるようになり、これが続くと実際に自分がやっていたときのいろんな苦労を忘れて、必要以上にものごとが簡単に思えたり、自分ならすぐできるという錯覚に陥ってしまうという現象が、まさに起こっていたという反省もありました。
「RANGE」 という本では、環境が大きく変化するような領域ではむしろ専門的な経験が成長の邪魔をするという説も語られています。そこで、自分の枠組みを外してみるという意味でも全く違う領域のゼロからの学びを取り入れてみることにしました。
短期間で新しくゼロから学ぶのは大変だった
そして土地勘のないゼロからのワイン学習ですが、まずなんといっても座学のボリュームが多い。
ワインの歴史、作り方から世界中のワイン産地や銘柄、ブドウ品種の特徴まで、こまかく覚えないといけません。これは時間との戦いでした。学習時間を確保して3日坊主にならない工夫をして、日々の学習を自動化する必要がありました。
いちばん難しかったのは、3日坊主にならないようにすることでした。自分の場合はたまたまワインスクールで級長を任されたので、それが真っ当にコツコツやりきるためのよい牽制になりました。
そしてテイスティングの難しさ。これは経験が如実に出るところで、もともとワインが趣味でなかった自分にとってはなかなかの鬼門でした。外観、香り、味を決まったフォーマットで表現していくのですが、はっきりいって経験値がなさすぎて、どれがどの香りのことを言っているのかよくわからない。プロの表現を聞いて、自分の五感とマッピングしていく作業が必要でした。他人との感覚のズレを認識し、よくずれるところを重点的に繰り返し練習しました。
そして今回手に入れた、新しい学びの型
振り返ってみると、今回の一連の学習プロセスで気づいた学びの型(新たな知識体系を効率よく自分にインストールするためのポイント)は、以下のようなことでした。
まず学ぶ目的を言語化する
- 今回は、ワインエキスパートの資格を半年で取るという明確なゴールがあった
理想と現在地を可視化し、できない自分と徹底的に向き合う
- 自分よりよいものさしを持っている人に、腹落ちするまでフィードバックをもらえる環境が大事
- 一問一答テストの点数など定量的なフィードバックはわかりやすいが、テイスティングのように定性的なフィードバックのほうが重要な場面も多い
無理なく学び続けられる環境をつくり、学習を自動化する
- 自分が続けられる方法はなにか?退路を断つ?誰かに伴走してもらう?
小さな成長実感をこまめに得られるようにマイルストンを置く
- 成長実感がなくても学び続けられるほど心は強くない
仕事で意識してるはずのことを、プライベートでは意識できてなかった
いま言ったような学びの型って、仕事に当てはめると全部当たり前じゃないか!いつもやってるじゃないか!というかんじですが、プライベートでなにかを学ぶときにここまで意識することって意外とないんじゃないかと思います。少なくともわたしはこれまでなかった気がします。
また、ワインスクールの級長業を通じて、この学びの目的や環境を1人1人カスタマイズするのがいかに大変かも痛感しました(スクールは開発チームと違い、キャリアもビジョンもライフスタイルも全くバラバラなのだ)。 結局のところ、各々が自分の学ぶ環境について自分で考えて自分の舵をとらないと、効果的な学びのサイクルは回らないのです。
山本五十六が「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」と言うのも、この学びのエンジンを積んでいる人が圧倒的に少ないからではないかと思います。具体的なスキル習得のために誰かがこのフルコースを回すサポートをしてあげることもときに必要ですが、それよりも学びのエンジンを積み自分の舵を自分でとるためのメタな学びこそ、できるかぎり若いうちに身につけたいスキルのひとつだなといまは思っています。
3年後の個人的な人生目標とfreeeでの働き方をアラインさせるチャレンジ
この点に関して言うと、freeeでは最近グロースビジョンという取り組みを始めていて、個々人が3年後の人生ビジョンを自ら立て、そこから逆算してfreeeでこの半年間に何に取り組むかをマネージャとすり合わせる機会を設けています。これの意図はまさに、目標設定のスキルを高めて自律的な成長を促し、自分で自分の舵をとれるようになることです。freeeではメンバーの成長が会社の成長を支えるという信念があるから、各人が3年後にfreeeにいるかいないかに関わらず、そこに大きく投資しています。freeeでは新卒に3年でCTOになれと伝えているが、この学びのエンジンはマストだと思っています。
卓越への憧れと科学的アプローチ
また余談ですが、言語化しきれない定性的なゴールを追いかけて高みを目指す人たちが、どうやったら再現性をもって学び卓越の境地に到達できるのか?は、ライフワークとして今後も追いかけたい興味深いサブテーマだと思いました。エンジニアの文脈でいうと、3年もやれば多くの人はチームでWeb開発を出来るようになる中で、例えばfreeeのように100万人以上が使うサービスのコアアーキテクチャを考える場面では、トップエンジニアと働いていると明らかに技術的なセンスの差を感じる瞬間があります。なぜ見えている世界が違うのか?どうすれば一歩抜けた世界が見られるようになるのか?freeeで働いているエンジニアたちには、その世界を再現性を持って見られるようにしたいと思います。
前掲の 「RANGE」 では、まずさまざまな領域の課題に広く取り組んでから自分にフィットした領域を見つけて専門特化していくのが、卓越する鍵だと述べられています。また、「超一流になるのは才能か努力か?」という本では、卓越した技能を持つ専門家による「心的イメージ」をいかに理解して他人に伝え、再現性を持ってマスターしてもらうか?という方法論について、科学的なアプローチで挑んでいます。来年からfreeeでは、研究室制度と銘打って師弟スタイルのエンジニア育成施策にもチャレンジする予定なので、そこでいろいろトライしてみようと思っています。
おわりに
今回は、ひさしぶりにゼロから体系的な学習をしたついでに、自分の学び方をアップデートした話をしました。CTOとして技術的な意思決定の精度を高めるため、そしてfreeeをトップエンジニア輩出企業にするために、今後も学びの型をブラッシュアップしていく所存です。