この記事はfreee Developers Advent Calendar 2020の19日目です。こんにちは、freeeでiOSアプリ開発を担当している @RyoAbe です。 私は、普段はiOS版の会計freeeや人事労務freeeの機能追加や保守対応を並行しつつ、アクセシビリティ対応もやっております。
本記事では、そもそもなぜ私がアクセシビリティに携わることとなったのかをはじめ、freeeという組織がなぜアクセシビリティに取り組んでいるのかを、これまでの活動などを交えてお伝えできればと思います。この記事を通じて、「なんかアクセシビリティっておもしろそうな分野じゃん。興味あるなあ」なんて気持ちになる方がいたらうれしいです。
きっかけ
人事労務freeeのVoiceOver対応
2年ほど前、弊社デザイナーの magi さんから「iOS版の人事労務freeeのVoiceOver対応を進めてみないか」という相談を受けました。当時VoiceOverという言葉は聞いたことはあっても、どういった機能なのか、ましてやAPIについても私はまったく知りませんでした。調べてみるとVoiceOverはApple製品に内蔵されているスクリーンリーダーで、Appleの公式ドキュメントやVoiceOver対応のQiitaの記事を読んでみると技術的にはそこまで難しくなさそうに感じました。
当時の私の気持ちとしては、視覚障害の方のためにといった理由より、技術として単純に面白そうだなと軽い気持ちでチャレンジしてみた感じでした。
まずはじめにVoiceOverの操作方法を勉強しました。最初は癖あるなと思ったんですが慣れれば簡単です。その後、エンジニアが自由にテーマを決めて取り組める週1のhack dayという時間を活用して対応を進め、magiさんにも動作確認をしていただきながらリリースすることができました。そもそもiOS版人事労務freeeのUIはシンプルだったため、手を入れなくても良いところも多く、対応は比較的簡単でした。何よりそれまで長い期間の経験があったiOSアプリ開発の中で、知らない技術を触ることができてとても楽しかったです。
freee が「人事労務freee」のモバイルアプリをリリース。モバイルアプリの活用と勤怠機能の強化で、日々の勤怠入力を効率化 | プレスリリース | corp.freee.co.jp youtu.be
ただやはり情報は少なくAPIの仕様は分かっても、使い方が正しいのか分からず試行錯誤したのを覚えています。リリース後、magiさんの後押しもあったりでVoiceOver対応を通じて得た知見を記事にしたり勉強会で発表させて頂いたりしました。
その後の活動の中で社外のアクセシビリティ関係の方とお話しした際に、勉強会で作ったスライドを「拝見しました、参考になりました」との言葉をもらうことが度々ありました。これはアクセシビリティに限った話ではないですが、特別難しい技術でなくても得た知見をライトに発信することで、初めてその分野に足を踏み入れようとされる方々の手助けにつながるんだなということに気づき、いくらでも発信してやろうという気持ちになりました。
nakaneさんとの出合い
そんなこんなで私はアクセシビリティに興味が湧いてきていました。ただ、実際にVoiceOverなどのスクリーンリーダーを普段使いするような視覚障害者の方と直接接するようなことは今までなかったため、「スクリーンリーダーってどんな風に使ってるんだろ。VoiceOver対応した人事労務freeeは実際に使い物になるのだろうか」 といった疑問を抱いていました。
そんな中、magiさんからエンジニアで全盲のnakaneさんとの食事の場にお誘いいただきました。色んな話を伺いたかったので二つ返事で行くことに決めたのですが、サポート必要そうなときにしっかり動けるだろうか、何か失礼があったらどうしよう、そんな不安や緊張感もありました。
食事会で私は3つのことに気が付きました。
1つ目は、当たり前ですが注文時のメニューはnakaneさんには見えないですし、お箸やお皿の位置関係も伝えたりとサポートの必要があります。そんな当たり前のことを実体験できました。
2つ目は、nakaneさんめちゃくちゃ面白い人(かつ、後から分かるんだけどめちゃくちゃ肉とビールが好き🥩🍺)。私の勝手なイメージで、口数は少ないのではないか、それなりに話される方だとしてもジョークなどは言わないのではと勝手に想像していました。それがまったくもってそんなくとはなく、お話し上手でたくさんジョークなどもおっしゃっていました。食事の場で一番記憶に残っているnakaneさんの言葉が 「目の見える人は歳をとったら老眼になるから、大変だねー」 というブラックジョーク。笑っていいのか若干戸惑いつつも、大笑いしたのを覚えています。 「目の見えない人は世界をどう見ているのか」という本の中で 「善意のバリア」 という言葉が出てきます。
これは 健常者が必要以上に気にかけすぎて勝手に作りあげてしまう障害者との間のバリア のことで、nakaneさんは私が勝手に作り上げた不安や緊張感から生まれるバリアを、ユーモラスなジョークでほぐしてくれたんだと思いました。この本を読んで、視覚障害者が見る世界や接し方の理解がぐっと深まりました。最低限のサポートは必要であれ、変に肩に力を入れずにnakaneさんという存在と自然に接すればいいのだと。 もしよかったら読んでみてください。簡単ではありますが読書感想文も書いています。
3つ目は、食事会の帰りにnakaneさんからいただいた胸に刺さる言葉になります。 「アクセシビリティはさ、誰かのためにとかじゃなくて、自分のためにって思ってやるといいと思うよ」 と。助けたい、支援したい、といった気持ちではなく、 自分のためにやる、技術として好きでやる、そんなモチベーションでやればいいんだ と気づき、とてもしっくりきました。
まさかこの後、nakaneさんが入社されるとは思いもしませんでしたw 入社されてからはとことんお世話になっていて、アクセシビリティ対応に関わる面々での集まりで活動報告や対応方針を相談させていただいたりしています。
以下の動画は会計iOSの自動で経理のVoiceOver対応をnakaneさんに動作確認をしていただいているときの様子です。
対応までの流れをまとめたのがこちらの記事です。 もう一歩進んだVoiceOver対応 - freee Developers Blog
あらためてアクセシビリティとは?
さて、私がアクセシビリティに携わるきっかけやモチベーションについて説明したところで、改めて アクセシビリティとは何か 、freeeがアクセシビリティに取り組む理由について、弊社の日本トップクラスのアクセシビリティ人材のスライドを引用しながら説明したいと思います。
アクセシビリティー とは
- accessibility = access + ability
- アクセス + することができる
誰もが、ほぼ同じコストで、 ほぼ同じ量の情報を得られ、 同じ目標を達成できる
出典: @ymrl. 弊社全社会議「アクセシビリティの取り組みの紹介」にて
ふむふむ。誰もが同コストで同情報を得られ同目標を達成できる。
アクセシビリティの考え方
- 特定の誰かのためではなく、すべての人を対象にする
- 特別な専用のものを作るのではなく、同じものを使えるようにする
- 特定の条件での使いやすさではなく、あらゆる条件で使えることを目指す
出典: @ymrl. 弊社全社会議「アクセシビリティの取り組みの紹介」にて
ふむふむ。アクセシビリティは高齢者や障害者など特定の人のためではなく、すべての人が対象。そこにはもちろん私も含まれていて、以下のようなシーンが考えられます。
- 腱鞘炎でマウスが持てない
- Bluetoothイヤホンが電池切れ
- 子どもにメガネを壊された
出典: @magi. あなたの価値を高めるWebアクセシビリティ(JAC Special Ver.). p22
一時的なトラブルは誰にでも起こりえるかと思います。このような シーン以外にも便利な使い方ができる場面もあります。
例えば、
- iOSのVoiceOverや読み上げ機能を使って歩きながら記事や本を聴いたり
- Macで自分が書いた文面を読み上げて誤字脱字を見つける用途で使ったり
私は読むのが遅いので、これらの使い方は本当に重宝してます。 情報へアクセスする方法が多様になると、このような使い方も可能になるんだなと感じています。
なぜfreeeはアクセシビリティに取り組むのか
つぎに、これまで長々と説明してきたアクセシビリティをなぜfreeeが取り組むのか、その理由について説明します。
- スモールビジネスを、世界の主役に「freeeのプロダクトを使う」という文脈において障害者を減らしたい
- freeeのアクセシビリティが向上すれば、ユーザーはビジネスに自力でアクセスできる
- 結果、スモールビジネスの多様性は増加し、freeeは真に社会を変え得る存在となる
- 世界の主役になれる人を1人でも多く
- 1人が使えないことて失うユーザーは1人だけとは限らない
出典: @max. 社内アクセシビリティ研修
ふむふむ。
「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くできるプラットフォーム」
だれでも = あらゆる人 アクセシビリティ対応=あらゆる人が使えるようにする
出典: @yoshi. 人事労務freeeのアクセシビリティへの取組み. p14-17
このように、個人的な思いなどではなく freeeのミッションとビジョンを実現するための取り組みの1つにアクセシビリティがあります。
このことを踏まえながら、Appleの公式サイトのアクセシビリティのページを見てみましょう。(2020年11月執筆時点の内容になります)
テクノロジーは、すべての人に力をもたらす時に、最もパワフルになります。
家族のポートレート写真を撮る。FaceTimeで近況を伝え合う。ブラインドを上げて朝の光を取り込む。私たちは、テクノロジーの力によって実現される毎日の瞬間を、すべての人に楽しんでもらいたいと考えています。だから、すべてのApple製品が誰にでも最初から使いやすくなるように取り組んでいます。デバイスの真の価値は、どれほどパワフルかではなく、どれほど人に力をもたらすかで測られるからです。
この動画とメッセージは、自分の中にとても染み付いています。「すべての人」 がキーワードだなと思っていて、Appleはテクノロジーで誰もが真の力を発揮できるようにするためのデバイスを作っているんだなと感じました。それは我々のミッションの「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くできるプラットフォーム」にも通ずると思っていて、誰でもfreeeを使ってさえいれば世界の主役になれる、そんなサービスにしたいなと自分も考えています。
あと、こちらの動画もとても素敵なのでご覧いただければと思います。
DJでありプロデューサーでもあるPatrick Lafayette氏が、VoiceOverを使いこなし音楽制作をしたり、料理を作って家族に振る舞っているときの様子です。「自分らしく生きてる!」 って感じがしてかっこいいですよね。いつかこんな感じの「freeeを使ってビジネスを強くスマートに育てられているユーザさんの動画」そんなのが作れたらいいな。
Appleのアクセシビリティに対する力の入れ具合
ここからはアクセシビリティ全般の話からもう少し踏み込んで、iOSにおけるアクセシビリティについて詳しく説明しようと思います。
WWDC
WWDCでは年々アクセシビリティに関連したセッションが増えていたり、新しいiOSがリリースされる度にアクセシビリティ周りの機能が大きくアップデートされていたりと、Appleがアクセシビリティに力を入れていることが伺えるかと思います。(国内でもiOSDCやDroidKaigiでアクセシビリティ関連の発表を見かけることが多くなりました)
アクセシビリティ関連のWWDCのビデオでは、新しく追加されたAPIの紹介以外にも、VoiceOver対応するためのテクニックが紹介されたりします。自動で経理のVoiceOver対応の記事にも書いていますが、会計iOSの自動で経理のUIは上下に2分割していて、なおかつ上部のカードが横スクロールに応じて下部の項目が変わるという少し複雑なUIで、このUIをVoiceOver対応するのはなかなか難しくとても悩んでいました。たまたま見ていたWWDCのセッションで、同じUIでのVoiceOver対応のテクニックが紹介されていて、歓喜しました。
iOS 14
また、iOS14に新たに加わったアクセシビリティ機能の「背面タップ」は個人的にも重宝しています(Macに接続されていたAirPodsProをiPhoneに直ぐさま切り替えるショートカットを呼び出すようにしてます。iOS14で自然に切り替わる仕組みが入りましたが、うまく切り替わらないことが多々あって)
その他にも色んなアクセシビリティ関連の機能が追加されていて、「手話へのフォーカス」は、FaceTimeで複数人で手話を使って話しているときに、話し手が目立つように映し出すというものだったり、
iPhone 12 Pro/ Pro Max に内蔵されているLiDARセンサーを利用したリアルタイムで人との距離を測ってくれる機能があったりします。(バスなどで列に並んでいるときに便利そうですよね)
内部的にはAIを用いているのか詳しくは分かりませんが、アクセシビリティの機能は便利な上に、技術的にも面白そうなものが多いです!
まとめ
ひょんなことからアクセシビリティに携わるようになり2,3年経ちます。これまで10年以上エンジニアとして仕事をしてきて今までの経験を活かしながら、新しい分野にそろそろ挑戦したいなというタイミングでした。難しい技術ではないのでチャレンジはしやすい分野ではあるものの、足をつっこむととても奥深い分野だなと感じています。
アクセシビリティに携わるきっかけをくれた @magi1125 さん、レビューを通して障害当事者として生のアドバイスをくださる @ma10 さん、本当にありがとうございます。お二人がいなければこの分野に関わることはなかったと思います。
これまでは個でモバイルのアクセシビリティの活動に取り組んでいましたが、これからは個としてだけでなく、チームとしての取り組み方の検討や推進にも取り組んでいきたいなと考えております。
この記事を読んで、「なんかアクセシビリティっておもしろそうな分野じゃん。やってみたいな」なんて気持ちになる方がいたらうれしいです。DMでもなんでもお待ちしております。
明日は、弊社プロダクトのセキュリティーを日々守ってくれている Eiji さんです。お楽しみに!