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freee特有の風土病:エンジニアの症例と寛解について

フリー株式会社 PSIRT 多田正

Abstract

フリー株式会社(東京都品川区,以下「freee社」)およびその関連会社,一部の提携先企業でのみ観察される症例が報告されている.著者はエスノグラフィー目的で当社に潜入し,2年間の観察をもってその固有性と症状をまとめた*1.本論文では特にソフトウェアエンジニアのみに見られる症状と,一定の条件下で寛解にいたる手法について報告する.

Introduction

freee社内において,本来「free」と記すべき文書等に「freee」と誤入力してしまう症例が数多く報告されている.入社後,比較的短期間で発症し,しかしながら人から人への感染性は認められず,退職後は徐々に症状が現れなくなるなど,freee社に特有の風土病として認識されている.症例そのものは当社が「freee」へ改名した2013年から報告されているものの*2,きわめて狭い地域内での発症であり,これまであまり研究されてこなかった.

著者は2020年,freee社へ実際に入社することで実際の症例を長期にわたって観察することに成功した.特にソフトウェアエンジニア(以下エンジニア)においては一部の条件下で苛烈な症状を呈することがあり,その緩和のために特別なコマンドを作成,運用することで,大幅な寛解を得られた.なお,当然著者も現在はこの風土病の症状を呈しているが,観察には可能な限りの客観性をもって臨んだことを記しておく.

Case

患者:20代男性
主訴:不安,動悸,過呼吸
既往症:なし
現病歴:入社後9ヶ月.入社直後に発症.AWS EC2上に標準的な開発環境を構築する業務に従事.インスタンスのリソースを確認するため,頻繁にfreeコマンドを入力する過程で重症化.

患者は入社後すぐに発症していたものの病状は単なるタイプミスの範疇のとどまっており,生活に支障はなかった.しかしながら,日常的にfreeコマンドを入力する業務に従事するようになって症状が悪化.freeの代わりにfreeeと入力するたびに強い不安を感じるようになった.さらに,何度もeを一文字多く入力してしまうことから,業務の継続にも支障をきたしている.周囲の同僚からも,悪態や溜息,奇声といった行動が頻繁に報告されている.その他の症状として,誤入力直後から脈拍が120付近まで上昇し,継続的な誤入力によってその状態が持続する.

対処療法freeeと入力したことで画面にはcommand not found: freeeと表示されるが,そのフィードバックに責められていると感じるとの訴えがあり,代わりにお探しのコマンドはfreeではありませんか?等,柔らかい表現に変えてみたものの症状の改善は見られず.

freeコマンドを実行しようとして「zsh: command not found: freee」と言われたところ
command not found: freee

誤入力後,すぐにミスをカバーしようとして焦り,ふたたび誤入力をする過程が観察されたため,直後の入力を阻害するウェイトを入れてみたところ一定の症状改善が見られた.しかしながら入力できない状態に対して苛立ちを示したため,さらに待っている間に眺めることができるアニメーションを再生するようにしたところ,劇的な改善が見られた.

freeeのツバメのアスキーアートが黒い画面を横切るようす
ツバメが画面を横切るように飛翔するアニメーション

術後経過:このいわば「freeeコマンド」の処方に対して患者は,「ツバメが飛んでいるのを眺めていると心が落ち着いて,次は間違いなくfreeと入力できる」「ふたたびツバメを見られると思うとfreeeと入力するのが怖くなくなった」「心の底からマジ価値が湧き出てくるのを感じる」と述べており,十分な効果があると判断できた.

freeeコマンドがない場合、平常時より60以上高い脈拍が2分以上継続するが、freeeコマンドがある場合はすぐに平常値に戻っている
freeeコマンドの有無による脈拍(平常時との差分)の変化

Discussion

freeeコマンドの処方には,誤入力を直後に指摘されるというネガティブフィードバックを止め,連続した誤入力を引き起こしやすいユーザインタフェースを改善し,アニメーションによって患者の精神の安定を図る効果があることがわかった.今後は飛翔速度のチューニングや,繰り返し再生,羽ばたき動作の追加によって,さらなる症状改善を図っていきたい.

また,本コマンドを利用するようになった他のエンジニアたちからは「標準開発環境のAMIに組み込みたいのでgolangで再実装してください」「slコマンドのパクリじゃねーか」「ツバメがみたくて一日に何度も実行してしまいます」という感想が届いている.とくに最後のコメントをしたエンジニアにおいては~/.zsh_history の実に30%がfreeeで占められており,freeeコマンドの強い習慣性を示唆している.継続的な観察が必要である.

Conclusion

freee特有の風土病について症例を報告し,一部エンジニアの症状に対処療法としてfreeeコマンドを処方することで寛解を得られることを示した.

Acknowledgements

偉大なる先駆者であるslコマンドに,最大級の感謝と敬意を.
明らかにブランドポリシーに反する解像度の低いアスキーアートの利用を,快く承認してくれたブランド室へも感謝します.


はいこんにちは。PSIRTマネージャーのただただし(tdtds)によるfreee Developers Advent Calendar 2022 24日目の記事でした。昨日は我がPSIRTの新鋭WaTTsonが切れのいいセキュリティの話を書いてくれたので、マネージャーの私は安心して与太話が書けました。与太とはいえfreeeコマンドを作ったのは本当で、フリーソフトウェアとしてソースコードも公開しています。contributeお待ちしております!

明日のトリを務めるのは昨年もDBがらみの濃ゆい話を書いてくれたshallowさんです。お楽しみに!

*1:文献1:多田正:freee特有の風土病:その固有性と典型的な症状 [未発表],2022

*2:文献2:内部文書のため引用できず